隣の人は、さっきまで自分が苦戦していた課題をすっと登っていく。「自分には向いていないのかな」。楽しみに来たはずなのに、人の登りを見て、少し気持ちが沈んでしまうこともあります。
比べないようにしようと思っても、気になる日はあります。そんなときは、目の前の一本を、少しだけ細かく見てみませんか。ゴールできたかどうかだけではなく、その途中にも、自分なりの変化や気づきがあります。
同じ課題でも、難しく感じる場所は違う
ホールドとは、壁についている、手で持ったり足を置いたりする突起のことです。同じホールドを使う課題でも、身長や手足の長さ、体の柔らかさ、慣れている動きによって、登りやすい方法は変わります。
背の高い人が手を伸ばすだけで届く場所でも、小柄な人なら足を一段上げたり、体の向きを変えたりして届かせることがあります。反対に、小柄な人だと狭い姿勢へ入りやすかったり、体を小さくまとめやすかったりすることもあります。
「届かないから不利」で終わるのではなく、自分の体だから見つかる動きがあります。
人の登りは参考になります。でも、その人の手順や姿勢を、そっくり再現することだけが答えではありません。
「自分の足なら、どこに置けそうかな」「この向きなら、少し楽になるかな」
そんなふうに、自分に合う動きを探していくところにも、ボルダリングの面白さがあります。
同じように力強く登らなくてもいい
隣の人が力強く登っているのを見ると、「私には、あんな力がないから」と思うこともあるかもしれません。でも、同じ動きを、同じ力で再現する必要はありません。
壁には、手で持つホールドだけでなく、足を置くホールドもあります。手で体を引き上げるだけではなく、足で立ち上がったり、腰の向きを変えたり、壁との距離を調整したりしながら登ります。
どちらの足に体重を乗せるか。腰をどちらへ向けるか。手を出す前に、少し姿勢を変えてみるか。
腕の力を足そうとする前に、変えられることは意外とたくさんあります。
最初から難しい課題で試す必要もありません。取り組みやすい課題で、手や足の置き方を一つずつ試していけば十分です。
ゴールの手前にも、できたことがある
今日は最後まで登れなかった。でも、前は触れなかったホールドに触れた。足を置き直せた。いつも落ちていた場所で、少しだけ姿勢を保てた。怖くて出せなかった手を、今日は出せた。途中で止まる理由が、一つ分かった。
ゴールできたかどうかだけを見ると、どれも「登れなかった日」になるかもしれません。けれど、壁の中で起きていることは、毎回同じではありません。
ボルダリングは、ゴールできた瞬間だけが変化ではありません。昨日は分からなかった動きが分かった。前より少し楽に登れた。次に試してみたいことが見つかった。そういう小さな変化も、その人の登りです。
次に登る前に、一つだけ試すことを決めてみるのもおすすめです。
「右足の位置を変えてみる」「ホールドの持ち方を変えてみる」「もう少し体を壁に近づけてみる」
一度に全部変えようとせず、一つずつ試すと、その一本の中で何が変わったのかも分かりやすくなります。
人の登りは、比べるものではなくヒントにもなる
人の登りが気になるときは、ちょっと観察してみるのも一つです。
どこに足を置いているか。手を出す前に、体をどちらへ向けているか。足を置き直している場所はどこか。
人の登りには、自分では思いつかなかったヒントが隠れていることがあります。
話してみたい気分なら、「そこで足、どこに置いていますか?」と尋ねてみるのもいいかもしれません。もちろん、話す気分でなければ、自分の課題に集中していても大丈夫です。
どうしても周りが気になって疲れる日は、別の課題へ移ってもいいし、一度マットを離れて休憩してもいい。その日にどう登るかだけでなく、どう過ごすかも、自分で選べます。
自分なりの物差しを持ってみる
周りと比べてしまうと、どうしても「登れた・登れなかった」だけで自分を見てしまいがちです。でも、自分の中に別の物差しがあると、その日の見え方が少し変わります。
今日は、前より一手進めた。今日は、力まずに登れた。今日は、怖かった動きを一つ試せた。今日は、気持ちよく体を動かせた。今日は、一つ面白い課題に出会えた。
そんな終わり方でもいいと思います。
誰かより登れたかではなく、昨日の自分より上手だったかですらなく、「今日は何があったかな」くらいの見方でも十分です。
毎回、前より上手に登れたと感じられるとは限りません。うまく動ける日もあれば、思ったように進まない日もあります。
それでも、「次は右足を変えてみよう」「もう一回だけやってみたい」。そんな気持ちが残る一本があれば、それも十分その日のボルダリングです。
隣の人と同じ登り方をしなくてもいいし、同じ早さで上達しなくてもいい。少しずつ、自分の体に合う動きが分かってくる。その過程も含めて、ボルダリングの面白さなのだと思います。

